人気ドラマ・映画の原作・脚本を手がけるヒットメーカー宅間孝行が、自身の劇団「東京セレソンデラックス」(12年解散)のために書き下ろした伝説の舞台『くちづけ』を映画化!!知的障害者たちの自立支援のためのグループホームを舞台に繰り広げられる父いっぽんと娘マコの物語は涙なしでは語れない。本作で知的障害者である娘マコ役を演じた貫地谷しほりさんと、元人気漫画家の父・愛情いっぽん役を演じた竹中直人さんに作品の魅力を語っていただいた。
―昨年解散した劇団「東京セレソンデラックス」の演目『くちづけ』を映画化した本作。最初に脚本を読んだ時の率直な感想を教えてください。
貫地谷/最初に“くちづけ”というタイトルと竹中さんと私が出演ということで、絶対にコメディだなって思っていたんですけど、読んでいたらちょっと様子が違うなって感じて。本当に、本が素晴らしくて涙が止まらなくなってしまいました。とにかく覚悟して演じなければいけないなって、その時思いましたし、本を読んだだけでそれだけの覚悟ができる作品に参加できて、すごい幸せだなって思いました。
―演じる上でお二人が心掛けたことはなんですか?
貫地谷/今回の役はノーメイクなので、とりあえず眉毛を生やそうと思って、高校2年生ぶりに眉毛を生やしました(笑)。役づくりでは、グループホームに伺わせていただき役について絞れるかなって思ったんですけど、本当に個性豊かな方がたくさんいらっしゃって、選択肢が広くなってしまい、撮影直前まで悩んでいました。ただ失礼なものにしたくないという思いはありました。知的障害者を馬鹿にしたような作品にはしたくないと思っていたので、演じるのに覚悟は必要でしたね。
竹中/しほりちゃんとは縁があって何度か共演しているんです。映画『僕らのワンダフルデイズ』でも親子役をやっています。だから何の問題もなく、しほりちゃんに「いっぽん」って呼ばれれば、自分の娘って感じで、気持ちを起こしていかなくても、親子を感じることができ、自分の娘にしか見えなかったですね(笑)。
―今回の撮影は演劇的なやり方の撮影で、スケジュールも2週間とタイトだったそうですが、撮影現場で大変だったことはありましたか?
貫地谷/変だったというか、カメラを一気に20分ぐらい、15〜20ページ分を一連で回すんです。だから音が入っちゃうといけないのでスタジオ内の空調を止めるんですけど、中は地獄ですよ。照明もガンガン焚いていますから。だから1カットの最初と最後では顔が違う人がいるんです(笑)、ビチョビチョになって。私は汗をかかない方なので、今までコンプレックスでしたが、今回の現場では良かったですね(笑)、宅間さんなんて、汗で雨が降った後みたいになっていましたから(笑)。
―貫地谷さんから見た竹中さんはお父さんとしていかがでしたか?
貫地谷/本当にすごい愛情を感じました。今回そこが一番のキーワードというか、マコがすごい愛情を受けて育ったというのが根底にある作品で、私自身もうるさいくらいの愛情を家族からもらって育ったので、そこがマコとの共通点だなって。初めてご一緒した10年前からずっと変わらない竹中さんで、ラストのいっぽんとマコのシーンなんか、集中力のすごさに圧倒されました。だからこそ私も緊張感をもって挑めたと思います。
―今回はすべてスタジオ内でのセットの撮影だったそうですが。
竹中/撮影所っていうのは、僕にとってはいつまでも憧れの場所す。そのスタジオの中に大きなセットが作られていて、とても贅沢な空間でした。
―原作・脚本を手掛け、うーやん役として出演した宅間孝行さんと、メガホンをとった堤監督についてお聞かせください。
その時に宅間さんは私がマコ役をやること知っていたみたいで、「分かってる?」って何度も言われ「分かっていますよ。宅間さんですよね」って見当違いなことを言っていました(笑)。その数週間後くらいに、台本をマネージャーから渡されて、ようやく意味がわかったんです(笑)。監督とはご縁があり、初めてのドラマに出演させていただき、初めての大きい舞台も体験させてもらい、そして今回も映画初主演作が堤監督だってことで、すごく感慨深いです。監督は何もない私を人よりも大きく評価してくれているんだ思うこともあり、また今回の作品に対する想いが伝わってきたので、がっかりさせないように頑張ろうという気持ちでいっぱいでした。
竹中/僕がやっているラジオにゲスト出演してもらったのが宅間さんとの最初の出会いですね。自分が言うのもなんですが宅間さんは僕のファンだそうで、「演劇を観に来て欲しい」って言われたんです。なかなかタイミングが合わなくて、今回も「今度飲みましょう」って、何度も宅間さんが誘ってくれるんですが、まだ一回も行ってないんです。酷いな―オレ、照れくさいんでしょうね、僕(笑)。 堤監督とは映画『トリック劇場版』でご一緒させていただいて、僕がアドリブをすればするほど喜んでくださって、それが最初の出会いだったんです。今回の堤監督は今までとちょっと違った印象を受けましたね。何か違うエネルギーが監督から溢れ出ている感じで、僕がこれまで観た監督の作品とは違っていて、監督はまだまだ恐ろしい人だと思いました(笑)。
―本作では知的障害者の方同士の恋愛も描いており、マコとうーやんの恋愛についてどう思われましたか?
貫地谷/今回グループホームを見学させていただいた時、実際にカップルがいたんです。そこで働いている方も知らなかったみたいで、皆でご飯に行った時に初めて知ったようでした。それくらい、皆の前では照れてしゃべらない感じの空気だったんですね。それって小学生の時とかに好きな男の子がいてもしゃべりかけないとか、ああいう感じと似ているなって思ったんです。劇中ではお互いがピュアだからといっぽんは言っていましたけど、先日、宅間さんには「子供のおままごとに近いんじゃないかな」って言われて。ただ、うーやんとは毎日を過ごしていく中で、いっぽんには程遠いけど、大切な存在になっていったんだと思います。
―貫地谷さんは劇中で『グッド・バイ・マイ・ラブ』を歌っていらっしゃいましたが、歌ってみていかがでしたか?
貫地谷/現場で監督に、もっと下手に歌ってって言われて、ちょっとやりすぎたかなって。「監督、今のちょっとやりすぎですよね」って聞いたら、「良かったですよ」ってOKになってしまったんですよ(笑)。
―観る人によって、とらえ方の違いがある映画だと思いますが、いっぽんとマコの親子愛についてどう思われましたか?
竹中/僕はしほりちゃんの「いっぽん」って呼ぶ声の音色が、一緒に生活してきた30年間をその一言に凝縮している感じがしました。
貫地谷/介護をしている方とか、心に余裕がなくなる瞬間って絶対誰にでもあることだと思うんです。いっぽんも例に洩れず、そういう時があったと思うんです。ただ竹中さん演じるいっぽんは、いつもマコに温かい目を向けてくれ、すごく大きな愛情で包まれている感じがしました。いつもああやってマコに愛情を注いできたと思うと、マコは幸せだなって思いました。