辞書という【舟】を編集する=【編む】、ある辞書編集部。辞書作りに情熱を注ぐちょっと変わった人たちの懸命な日々と壮大な夢を描いた三浦しをんの同名小説を映画化!!今回、24万語におよぶ言葉の海に奮闘する新人編集者・馬締光也役の松田龍平さん、馬締の下宿先の孫娘で、馬締が一目惚れする林香具矢役の宮﨑あおいさん、そして馬締を支える先輩編集者・西岡正志役のオダギリジョーさんに、映画について話を伺いました。
―小説や台本を読まれて感じたことや映像化に向けてこうしていきたいと思ったことはありますか?
松田/西岡と馬締の男同志の微妙な関係性というか、お互いが影響し合う描かれ方がすごく面白いですね。この映画は辞書の話で、言葉の話なので、それをどうやって描いていくのかなと思いました。本だと、もしその部分がいまいち分からなくても飛ばしてまた戻ってくることもできるけど、映画は続いていくものだから。でも人から言葉が生まれるという描かれ方をしていて、観ている人に伝わるんじゃないかと思いました。
宮﨑/小説を資料として先に頂き、自分が演じるかもしれないという前提に読んでいたので、純粋に読書を楽しむということではなかったのですが、とても読みやすかったんです。世の中に辞書はたくさんあるので、いろんな人が辞書を作っているのは当たり前なんですけど、改めて考えたことがなかったので、こんな世界があるんだなと知るきっかけになりました。
オダギリ/辞書を作るってこと自体が難しそうな話だし、とっつきにくそうと感じられないように、辞書を作るということが面白い作業で、そこに関わる人たちが創るドラマがいかに魅力的かということを映像で表現できればいいなと思いました。作品を観ていただく前にそういう情報がちゃんと届いて、とっつきにくさを振り払った状態で観てもらえるのがベストですね。
―演じられてみて、それぞれの役どころの好きなところや自分自身と通じるところがあれば、教えてください。
松田/真面目なところかな(笑)。今回、映画で馬締は辞書を作るという、彼の才能をうまく使える仕事と出会いましたが、だから彼は成長できたと思って欲しくないんです。もし、彼が辞書に出会わなくて、苦手な営業をそのまま続けていたとしても、それでもちゃんと成長できたと思うので、前を向いている人というところは意識しました。馬締が恋をする香具矢という女性がいるんですけど、好きだからこそ、嫌われたくないっていう思いからなかなか言葉が出ない。だからこそ、言葉を選んでしまうことって自分にもあるなと思いました。
宮﨑/香具矢は、背筋がピンと伸びているような、潔い女性だなっていう印象があるので、そこは好きですね。通じるところは、やりたいことがはっきりとしていて、やりたいことをやりたいと言えるところ。やりたいことがはっきりとしているという部分は似ていると思います。
オダギリ/西岡という役は、お調子者とかチャラチャラしたという形容詞を付けられる役なんですけど、結局、辞書作りだったり馬締のサポートだったり、一見、適当そうなんだけど、ちゃんと責任を取るという姿勢が好きですね。似ている部分は、僕も適当なところはいろいろあるし、責任を取りたいとも思っているタイプなので、そこが似ているっていうことにしておきましょう(笑)。
―松田さんが今回演じた馬締はとても物静かな役柄で、あまり表情を変えずにやる気を見せたり、怒ったりというような感情を表すというのは難しかったのではと思いますが、演じるにあたり、気をつけたことは?
松田/馬締はなかなか自分の思いを言葉として発することが苦手な人間なので、セリフもあまり多くなく、伝えたいけど伝えられないもどかしさがあったり。だから一生懸命さっていうのが、観ている方に伝わればいいと思い、そこを意識してました。
―宮﨑さんは板前役ということで、所作や包丁の使い方など、難しいところもあったと思いますが、役づくりはどのようにされたんですか?
宮﨑/クランクインする前に少し包丁の使い方や、こんにゃくを刺身に見立ててのさばき方を教えていただき、現場でも包丁を扱うシーンがある時は先生に来ていただいて、指導していただきました。
大変だったのが、つまをお皿に盛り付けるところで、箸を回しながら、指を回しながら、丸く高くするというのが、見ている分にはそんなに難しそうに見えなかったんですけど、実際にやってみると意外と難しくて、細かい技が必要なんだなと実感しました。
―【言葉】を大事にしている作品だと思いますが、それぞれのセリフの中で、印象的だった言葉やシーンがあれば教えてください。
松田/『右』を説明するところだったり、馬締が恋をして『恋』の語釈を書きなさいって言われたり、言葉っていうものが自分の気持ちを絡めて初めて意味ができるということ、そういうところですね。
宮﨑/セリフをしゃべってしまうと忘れてしまうので、自分のセリフは思い出せないんですけど(笑)、馬締と西岡のやりとりがすごく印象的でしたね。その時の西岡さんの突っ込みみたいな言葉が面白くて好きでした。
オダギリ/自分のセリフを一生懸命思い出したんですけど、池脇千鶴さんに対して「お前の顔って、微妙なとこついてるよなぁ」というようなセリフがあったんですけど、あれって、一見すごく失礼に取れる言葉だけど。でも西岡が可愛くて仕方ないというところもちゃんと表現できているような気がして、言葉の深さというか、日本語の表現の広さというか、「お前ってたまに可愛くてしょうがないね」っていうよりも適度な温度を持った言葉だなと思いました。
―では、好きな言葉や気になる言葉はありますか?
宮﨑/もう27歳なので、なるべくキレイな日本語を使っていきたいと思っています。個人的には、「おもてなし」という言葉が好きですね。人に対して、もてなすというのは素敵なことですし、その人のことを考えて自分が何かをするというのは、楽しいと思うので私は「おもてなし」が好きです。
オダギリ/「つんつるてん」とか、どっから生まれたのかなという言葉ってあるじゃないですか。「とことんやろう」とかも、想像の範囲を超えた言葉というのは、興味をもっちゃいますね。
―この映画を観ると【言葉】に対する見え方が変わってくるかと思いますが、今回映画に出演されて、言葉や辞書への認識で変わったことはありますか?
松田/僕は単純に面白いなと思いましたね。一つの言葉でも、それぞれ持つイメージや語釈が違うし、世の中にたくさんある辞書の言葉の一つ一つに作り手の個性があり、捉え方があって書かれていると思うと面白いですよね。
宮﨑/私は辞書に対する考え方がすごく変わったんじゃないかと思います。今まで、使用例を読んでもそこに感情は無かったんですけど、作った人の個性とかが使用例に現れてたりするのかなと思うと、これから先、辞書を引く時の気になるポイントになるんじゃないかなと思います。
オダギリ/宮﨑さんのおっしゃったことと、ほぼ、95%かぶっていると思うんですけども(笑)。今までやっていた、辞書を引くという行為は動く感情もなく、事務的に引いていたことが多かったと思うんですけど、今回この映画を通して、そこにどれだけの人たちが感情を動かしながら、一冊の辞書を作っているかという事を考えると、そこに宮﨑さんと95%同じような感情、そして奥行きみたいなものをこれから感じていくと思います。
―最後に松田さん、読者に向けて一言お願いします。
松田/辞書は世界中にあるけど、日本ならではの言葉使いというのを映画で感じてもらえると思います。普段何気なく使っている言葉をちょっと違う角度から見ていただけるし、笑えるというか。馬締がいろんなものに四苦八苦して、あたふたしている姿だったりとかを観て笑って、温かい気持ちになってもらえる作品だと思います。